男性不妊症

男性不妊症とは

世界保健機構(WHO)のマニュアルでは、不妊症の定義を避妊しない性行為によって少なくとも12ヶ月経過しても妊娠に至らない場合としています。その中でも不妊症の原因が男性側にある場合、男性不妊症と言います。

不妊の原因が男性に同定できるもののことを指します。

現在では、通常のカップルのうち約15%は不妊症といわれています。

WHOは男性にのみ不妊原因があるカップルが24%、女性にのみ不妊原因があるカップルが41%、男女ともに原因があるカップルが24%、原因不明が11%と報告しています。

すなわち、不妊カップルの約半数において、男性側に原因があるのです。

男性不妊症の原因

男性不妊症の原因には、大きく3つに分けることができます。

  1. 造精機能障害(精子形成障害)…精子がたくさん作れない

  2. 精路通過障害…精子が通れない、でてこない

  3. 性機能障害…性行為ができない

 

2016年公表された全国調査の結果では、造精機能障害が82.4%、精路通過障害が約3.9%、性機能障害が13.5%であり、以前の調査と比較して性機能障害の割合が増加しています。日本の婚姻カップルの45%はセックスレスという報告もあり、今後、性機能障害に対する治療は男性不妊症に関しても極めて重要になるでしょう。(勃起不全の治療は下記ページをご参照ください。)

男性不妊症の主な病態、種類

男性不妊症は主に乏精力症、精子無力症、精子不動症に大別されます。

乏精子症は精子の「量的問題」そして精子無力症と精子不動症は「質的問題」と考えることができます。

乏精子症

乏精子症とは、精子の量(精液の量ではありません)が少なく、自然妊娠が難しい状態を指します。

より厳密には総精子数が2000万以下(一説には、精液1mlあたり1500万以上の精子数)の状態とされますが、量以外にも精子運動率や精子奇形率などもあわせて総合的に判断されます。男性不妊症の中でもこの乏精子症は大きなウエイトを占めています。

精子無力症、精子不動症

精子無力症とは、受精するために前進してゆく力の弱い精子が多い状態を指します。

さらに精子不動症とは全ての精子が動いていない状態です。両者とも精子がすべて死滅しているわけではありませんが、自然妊娠が難しい状況といえます。

乏精子症、精子無力症、精子不動症の原因は様々で特定されないことが多いです。このような方に対しては、ビタミン剤や漢方薬などの薬物で治療を試みます。血液検査でLH、FSH値に異常がある場合はホルモン療法を行うこともあります。治療効果が確認されるまで、最短でも3ヶ月は必要です。

 

妊娠の基本は自然妊娠と考えていますが、治療に時間がかかりすぎることや女性側の年齢なども配慮し、産婦人科と連携して、人工授精や体外受精などの補助生殖技術も考慮します。

無精子症

精液中に精子が全く見られない状態を無精子症といいます。現在、日本人男性の約1%が無精子症といわれています。

無精子症と診断されれば、自然妊娠は不可能です。

ただ無精子症には、精子の通過路が閉じている閉息性無精子症と、精巣そのものの精子を作る力が落ちている非閉息性無精子症の2種類があり、どちらのタイプかにより治療内容が異なります。現代医学では手術や顕微鏡を利用して治療するのが一般的です。

一部の患者では精子が見つかり採取を行い、妊娠に成功した例もあります。

精索静脈瘤

精索静脈瘤は男性不妊症を引き起こす代表的な疾患で、陰嚢の静脈が拡張した状態をいいます。

決して悪性の病気ではありませんが、静脈瘤があると拡張した静脈内にある体温と同じ36度の血液により、精巣が温められることで精子形成障害が生じると考えられています。

精索静脈瘤は軽いものを含まると全成人男性の15%程度に見られます。

これらの患者において、精液所見が悪く、かつ高度な精索静脈瘤が認められた方は手術が必要で、通常顕微鏡を用いた手術で静脈を結索します。治療効果(精液所見改善率)は6~7割程度と言われています。

また一部の方に東洋医学も効き目があると認められています。

男性不妊の中医学の認識

中医学的に男性不妊症を考える場合、大切なことは精子の濃度や運動率のような「ミクロの視点」だけではなく、身体全体の様子から問題点を見出す「マクロの視点」も重視します。

まず中医学的に生殖活動には腎が一番深く関わっています。

腎とは西洋医学的な”腎臓”ではなく、生命の誕生や成長に関与する物質である”精”が貯蔵され、それに基づいた働きを行う中医学的な腎を指しています。

精は今風の表現を借りるならば「生命エネルギーの結晶」のような存在です。

私たちの身体に存在している精は両親から受け継いだ精と、主に食べ物を摂取することによって後天的に獲得された精が合わさったものです。この精を消費していくことで、成長、身体機能の維持、そして生殖活動が行われています。

したがって、精の不足、中医学的には腎虚と呼ばれる状態は身体に多くの影響を及ぼし、その1つが男性不妊症といえます。

精の不足以外にも男性器を栄養する血の不足も男性不妊症につながります。さらに血の不足だけではなく、上記で述べた通り精は食べ物から後天的に取り入れられるので、消化器(中医学的には脾胃)の調子が悪ければ、この改善も大切です。

補うだけではなく、気や血に滞りが見られる場合はこれが身体内で円滑に循環できるようにする必要があります。

それは気や血はスムーズに流れてこそ本来の働きがなされるからです。

気は精神的なストレスによってしばしば滞ってしまうので、睡眠時間の確保やリラックスは非常に大切です。

日本における漢方薬を用いた男性不妊症の治療法

腎に蓄えられている精の充実が生殖活動に欠かせないことは既に述べてきたとおりです。

したがって、漢方薬を用いて精を補給することが直接的な治療法となります。

精を補うことは腎の働きを補うことにもなるので、これを補腎と呼び、補腎する薬を補腎薬と呼びます。

具体的な補腎薬には鹿茸や地黄、杜仲、牛膝、狗脊、仙茅、仙霊脾、莵糸子等があげられ、主にこれらを含む漢方薬が用いられます。

また、漢方薬ではありませんが、黒ごま、黒豆、きくらげなどの黒い食べ物が精を補う食品として有名ですので、積極的に摂るのが良いでしょう。

精を補強するだけではなく、男性器を栄養する血を充実させることも非常に重要な漢方薬の役目です。

血を補う生薬である補血薬としては、当帰、芍薬・鶏血藤、阿膠、酸棗仁、大棗、竜眼肉などがあり、しばしば精を補う漢方薬と併せて使用されます。

肝腎同源という言葉があり、これは肝に蓄えられている血と、腎に蓄えられている精は相互変換が可能ということを表しています。

つまり、臨床的には正の補充と血の補充は不可分と言えます。

その他にも脾胃を立て直す生薬である補気薬も欠かせません。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮・甘草などが挙げられます。

男性不妊症の治療薬に用いられる漢方薬は、これら精や血を補う生薬を中心に、気を補う生薬などを配するという形が基本となります。

これら以外にも個人によって体質は異なりますので、それに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化していきますので、一般の方が自分に合った漢方を独力で選ぶのは非常に困難と言えるでしょう。

中国における漢方薬を用いた男性不妊症の治療法

■ 乏精子症(小精子不育症)
【腎陰虧虚、腎精不足】

■ 症状

乏精子症、消痩、膝腰がだるい、耳鳴、眩暈、手足心熱、不眠症。

■ 治法

滋補腎陰、益腎生精

■ 処方

滋腎生精湯加減

(熟地黄、肉蓰蓉、莵糸子、枸杞子、沙苑子、山茱萸、牛膝、五味子、桑椹子、天冬、知母、炒棗仁、覆盆子)

【肝脾腎虚、陰精虧損】

■ 症状

乏精子症、膝腰がだるい、疲れやすい、食欲不振、不眠、多夢、性欲低下、イライラしやすい、口乾きやすい。

■ 治法

補肝腎、益精血、健脾益気

■ 処方

七子六味湯加減

(莵糸子、枸杞子、桑椹子、五味子、沙苑子、韭菜子、熟地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、牡丹皮、茯苓、淫羊霍、女貞子、覆盆子、合歓皮)

【腎陰虧虚、腎陽不足】

■ 症状

乏精子症、膝腰がだるい、耳鳴、めまい、五心煩熱、畏寒、便溏、性欲低下。

■ 治法

滋腎陰、補腎陽

■ 処方

五子衛宗丸合六味地黄丸加減

(覆盆子、莵糸子、抔山薬、車前子、五味子、枸杞子、熟地黄、山茱萸、茯苓、牡丹皮、巴戟天、王不留行、仙茅、制益烏、沢瀉)

■ 無精子症
【腎精虧損】

■ 症状

無精子症、性欲低下、めまい、耳鳴、疲れやすい、腰怠い、不眠症、動悸。

■ 治法

補腎生精

■ 処方

滋腎生精湯加減

(熟地黄、沙苑子、枸杞子、黄耆、党参、何首烏、山茱萸、莵糸子、黄精、淫羊藿、柏子仁、甘草)

【気滞瘀血、精道不通】

■ 症状

無精子症、鬱っぽい、性行為後に睾丸の脹痛、小腹に向かって放散痛。

■ 治法

疏肝解鬱、活血化瘀、開通精道、佐補肝腎

■ 処方

化瘀通精湯

(当帰、桃仁、紅花、赤芍、枳売、牛膝、枸杞子、莵糸子、桂枝、川棟子、延胡索、川芎、甘草)

【真元不足、腎気不充】

■ 症状

精液清稀、無精子、疲れやすい、眠たい、顔色晄白、膝腰がだるい、頭痛、眩暈。

■ 治法

​補益真元、育髄生精

■ 処方

五六二合湯加減

(莵糸子、枸杞子、五味子、覆盆子、車前子、熟地黄、山茱萸、山薬、茯苓、牡丹皮、女貞子、旱蓮草、淫羊藿、葛根、石斛)

【肝腎両虚、痰瘀阻絡】

■ 症状

閉息性無精子症、疲れやすい、全身倦怠感、動悸、めまい、寝つきがよくない、多夢、膝腰がだるい、食欲不振。

■ 治法

補益肝腎、益気養血、化瘀消痰、軟堅散結

■ 処方

益腎通精湯

(枸杞子、莵糸子、桑寄生、牛膝、玄参、黄耆、鶏血藤、当帰、炒棗仁、桃仁、川芎、貝母、昆布、紅花、牡蠣)

■ 精子無力症
【脾腎陽虚、腎精虧損】

■ 症状

精子量が少ない、運動率が低い、精神的に疲れている、全身倦怠感、食欲不振、膝腰がだるい。

■ 治法

益腎填精

■ 処方

生精壮精湯

(莵糸子、淫羊藿、巴戟天、何首烏、肉蓰蓉、熟地黄、枸杞子、炒杜仲、黄耆、五味子、白朮、黄精、覆盆子、砂仁)

【腎陰陽虧虚、精血不足】

■ 症状

精子量が少ない、運動率が低い、膝腰がだるい、畏寒肢冷、頻尿、夜間尿、多夢、早漏、下痢。

■ 治法

補腎益精

■ 処方

補腎益精湯加減

(桑椹子、熟地黄、黄耆、芡実、枸杞子、莵糸子、僵蚕、仙茅、仙霊脾、山茱萸、地骨皮、沢瀉、当帰、山枙子)

【脾腎陽虚】

■ 症状

精子量が少ない、運動率が低い、長期間の下痢、腹部チクチクと痛い、食欲不振、疲れやすい、膝腰がだるい。

■ 治法

健脾補腎温陽利湿

■ 処方

参苓白朮散合真武湯加減

(党参、茯苓、白朮、陳皮、山薬、蓮肉、砂仁、ヨクイニン、桔梗、扁豆、砂仁、炮附子、芍薬、炙甘草、生姜、大棗)

■ 精索静脈瘤
【痰瘀阻滞、精道不通】

■ 症状

精索静脈瘤、下腹部がチクチクと痛む、長く座る動作が多い、しゃがむと痛みがひどくなる。

■ 治法

化痰開竅、活血通精

■ 処方

化痰活血通清湯

(白芥子、石葛蒲、黄耆、桃仁、麦茅、白朮、茘枝核、路路通、紅花、枸杞子、五味子、牛膝など)

【肝腎精虧、血瘀絡阻】

■ 症状

精索静脈瘤、精子量が少ない、運動率が低い、めまい、目の疲れ、乾燥、小腹・鼠径部・睾丸の掣痛感。

■ 治法

補益精血、疏通経絡

■ 処方

滋水清肝飲合四妙勇安湯

(熟地黄、山茱萸、茯苓、玄参、当帰、山薬、枸杞子、沢瀉、赤芍、白芍、丹参、柴胡、山枙子、銀花)

【労傷筋脈、瘀血凝滞】

■ 症状及び検査結果

精索静脈瘤、疲れやすい、腹部・睾丸の脹痛、疲れると痛みが酷くなる。

■ 治法

化瘀血、通清竅

■ 処方

血府逐瘀湯加減

(丹参、当帰、桃仁、紅花、赤芍、川芎、地黄、牛膝、柴胡、甘草、延胡索、香附など)

男性不妊でお悩みの患者様へ

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不妊症が気になっていても、まず何をすれば良いのか分からず困っている方も多いのではないでしょうか。

男性はまず精益検査、超音波検査、血液検査をしましょう。

もし、精子の濃度や数が足りない、運動率が良くない、形が異常、精巣の大きさや状態は問題あり、精索静脈瘤があり、血液中のホルモンの量が足りないなどが認められたら、ぜひ漢方薬も飲んでみて下さい。上記の異常に漢方薬は効いている例が豊富であり、自信をもってお勧めします。

皆様のお力になれればうれしです。一緒に頑張りましょう。​

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